夏 休 み 未 来 教 室
春 野 夢 男
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「一つには太陽光の直撃から身を守る為。無論宇宙のゴミを避ける意味もありますが、静止軌道上だと宇
宙のゴミの危険性はかなり低いから、それは大したことが無いことは分かりますよね?」
「はい。静止軌道上にあるゴミは、やはりそれも静止している事が多いですから、漂っている感じで、ぶつ
かっても大したことは無いということですよね?
それに取る事の出来る場所は国際的な取り決めで国別に厳格に決っているから、自国のゴミさえちゃん
とチェックすればまあ、極端な事は無い筈ですからね」
「ああ、その通りだ。さすがに良く知っているね」
博士は感心しながら言った。更に言葉を続ける。
「もう一つには、君の所在を秘密にする為なんですよ。SWX教団の過激派は依然として君を狙っていると
いう情報がある。
ニューケッペルスターそのものが君自身だという所までは気が付いていないかも知れないが、乗っている
と思われているらしい。
実際頭部は通常のロケットの様に一切窓も何も無いから、誰も乗れない様に見えるが、疑り深い連中だ
と、逆にだからこそ怪しいと思うのだろう」
「成る程。しかし彼等は宇宙空間にまで進出出来ますか?」
「不確かな情報だが自前のロケットを持っていると聞いている。性能の程は分からないが、別にミサイルで
なくても、例えばここにロケットをぶつければ、相当のダメージになる。用心の為というのが一番の理由だ」
「分かりました。ニューケッペルスターがここにある事は秘密なのですね?」
「そうだ。ああ、そろそろ時間が迫っている。質問はあと一つ位にしてくれないか?」
博士は時間を気にしだした。
「ああそうですね。じゃあもう一つだけ。私の目はどうなっているのでしょうか? まさか機体の前方に付い
ている訳では無いでしょうね?」
サムライは自分のペニスが機体の前の方の下側に付いている事は大体分かっていたが、更に目まで付
いていたら、
『何と言うのか、すっかりマンガだよね。俺も日本人だ。そんなんじゃ恥ずかしくてやっていられない。ペニ
スはユウカリさんとの関係から露出しているのは仕方ないとしても、それ以上は勘弁して貰いたいよ!』
そう強く感じていた。
「実は目も口も耳もそれから鼻も無いのですよ。はははは、いや、笑ってはいけないのだが、日本の妖怪
の『のっぺらぼう』みたいですね」
「博士、笑い事じゃありませんよ。じゃあ、私はどうやって目が見えているのですか? まあ、少し今までと
は違うと思っていましたが、その、耳だってそうですよ。口もね」
「目は赤外線を使っている。それと電波も使って、映像をコンピューターで作り上げているのですよ。従って
ある程度、物体の中まで見ることが出来ます。
ここに来た宇宙飛行士達はヘッドランプの光で視界を確保していましたが、まあ、私もそうなのですが、
彼等は貴方が赤外線を使っていることには気が付かなかったでしょう。
音声のやり取りも電波が主です。デジタル暗号が使われていますから、仮に通信が傍受されても、何だ
か分からない筈です。
それから残念かも知れないが、今回は匂いは無しです。ああ、いよいよ時間です。もっと聞きたい事があ
るでしょうが、それはまたこの次ということにして下さい。じゃあ失礼しますよ」
博士は言い足りなかったと思いながらも、予定通りの行動をする為に、その場を宇宙スクーターで去って
行った。
『そうか、目も口も耳もそれから鼻も無いのか。はははは、本当にのっぺらぼうだな。ふふ、哀れな男の末
路って奴か?』
かなり自虐的な気分だったが、静か過ぎるほどの宇宙に今、サムライはたった一人だった。しかし直ぐ
に、煩い相棒の存在に気が付いて、
「オープン! オープン! オープン!」
呪文を三回唱えた。
「はあいっ! ご主人様、何か御用で御座いますか? 目覚めのエッチで御座いますか?」
「はははは、全く元気な奴だな。エッチはまた後にして、お前に質問しても良いのかな?」
「はあい、勿論、何でもOKですう。でも、難しい質問は、ちょっと辛いですわ。なるべくエッチ系の質問にし
て下さいね」
チュチュは少し自信無さそうに言った。
「うーん、難しい質問をしようと思っていたんだけど、先に断られてしまったか。はははは、それにしてもなる
べくエッチ系の質問か。参ったねこりゃ。
勿論エッチ系の質問もするけど、どうも分からない事が沢山あってね。さっき君が眠っている間に、シュ
ナイダー博士に聞いていたんだけど、時間が無いとかで帰っちゃったんだよね。
それで君が、チュチュが何か知っているかも知れないと思って、聞いてみたかったんだけど、無理かな?」
「いいえ、全然平気です。でも知らない事には答えられませんよ。それで嫌いにならないですよね?」
「はははは、それは大丈夫。何しろここじゃ君と二人きりなんだからね。それに俺を気持ち良くさせてくれる
し、嫌う理由は無いよ」
サムライはあっさりと言った。
「ああ、良かった。だったらどんどん質問して下さい。それでもし良い答えだったら、ご褒美が欲しいですう」
「ご褒美? 何が良いのかな?」
「うふふふ、きまっていますわ。チュチュのお口でノボル様を一杯行かせることですわ。チュチュにはその
瞬間が一番幸せなんですから。一杯、一杯出して下さいね。沢山出れば出るほどチュチュは幸せなんで
すう」
「はははは、もうそればっかりだな。しかし、分かりやすい奴だな。俺は絶頂に達すれば幸せだし、チュチュ
もそれで幸せなのだったら、何も言う事は無い。二人はラブラブということだな」
「アアーーーンッ!! ラブラブだなんて最高のお言葉ですう! チュチュはもう興奮して来ました。質問の
前に一度で良いですから幸せになりましょうよ!」
チュチュは待ち切れないとばかりに、得意の三枚舌で愛撫を始めたのだった。サムライは拒否しなかった。
『淫乱な気もするけど、これが黄味麻呂ユウカリさんの望みだったら、大いに叶えてあげよう。彼女にはど
れほど謝っても謝りつくせない程、酷い事をしてしまったのだからな』
そう感じていたので、その後、チュチュの望むまま、五、六回も絶頂に達したのだった。しかしチュチュは
止め時を心得ていた。
『少し飽きて来たみたいね』
そう感じた瞬間、ピタリと止めてしまったのである。セックスだろうと何であろうと、人間は同じことの繰り
返しだと、必ず飽きてしまうものである。
それがどんなに素晴しくてもである。それを心得ているチュチュの能力は尋常なレベルでは無いとサム
ライは感じたのだった。
「ご主人様、質問をどうぞ」
チュチュは神妙に言った。相変わらず嫌われる事を恐れているようだった。
「ああ、そのう、これから聞くことは、もし答えたくなければ答えなくても良いからね。その積りで居てくれ」
「はあい、分かりました。あのう、何でしょうか?」
チュチュはますます慎重になっていた。
「チュチュは博士に何て言われていたのかな?」
「博士というと、シュナイダー博士ですよね?」
「うん。これはちょっと言い難いんだけど、博士にもお口のご奉仕をしたんだろう?」
「はい。博士だけじゃなくて、他に沢山の男の人ともやりましたし、あの、女の人ともやりました。最初は舌
は一枚だったのですが、余り満足出来なかった様で、直ぐ二枚になりました。それでも物足りないとか言っ
て、三枚になったんです。
博士は私を『ユカ』って呼んでいました。その他の人もそうでした。ただ博士はその事は忘れるようにって
言っていました。
新しいご主人様、ノボル様が本当のご主人だと聞かされたんです。でも、私は、ずっとそう思っていました。
本当はノボル様以外の人とはしたくなかったのですが、ノボル様が満足する為だったら、チュチュは何
でもする覚悟でした」
余りにも人間的な答えにサムライは戸惑った。
『おいおい、お前は本当は意識があるんじゃないのか? 黄味麻呂ユウカリの名前を使っても大丈夫だろ
うか? しかし、いや、どうしても確かめたい!』
サムライは真実を知りたい衝動に駆られていた。
「えっと、『ユカ』だったよね?」
「はい。でも今はチュチュですよ。ご主人様の付けた大切な名前です」
「うん、それは分かっている。ええと、その、変なことを聞くけど、どうして『ユカ』なのかな?」
「さあ、博士の好みなのでは無いでしょうか?」
「そうかも知れないけど、ひょっとして、ひょっとして、『ユウカリ』なんじゃないのかな。それを縮めて、『ユカ』
なんじゃないのか?」
「………………」
その途端、チュチュは何も答えなくなった。
「どうした? さっきも言ったけど、答えたくなければ、そう言えば良い。嫌な事はそれ以上追求しないよ」
「………………、私は、私は、黄味麻呂ユウカリです」
「あっ!」
今度はサムライが沈黙した。意識は無い筈である。夢さえ見ていない。殆ど脳死状態だった筈。僅かに
生きていた部分だけの脳が、はっきりと本名を言えるだろうか。しかも言葉は日本語だったのだ。
「御免なさい。私は死んでいるんですよね?」
「あああ、信じられない。本当にユウカリさんなんだよね。しかし、ああ、駄目だ、混乱して来た。兎に角、
君に謝るよ。
悪の権化の様な金森田玄斎を捕らえる為とはいえ、君に最悪の行為を押し付けてしまった。本当に、本
当に申し訳なかった」
サムライは、いや、林谷昇は悲痛な面持ちで謝罪したのだった。