夏 休 み 未 来 教 室
春 野 夢 男
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「いいえ、謝るのは私の方です。役目を十分に果たせなくて御免なさい。それに私は弱くて、自分の淫乱な
気持ちを抑えられませんでした。
精神科の病院に収容されてから私は毎日オナニーばかりしていたと思います。皆の目の前でも平気でし
た。でも何時も後悔しています。
こんなに平然と人前で一人エッチ出来るのに、どうして金森田のセックス攻勢に耐えられなかったのか。
いつもいつもそれを悔やんでおりました。
あのう、一つだけお願いがあります。厚かましいお願いなのですが、聞いて貰えるでしょうか? 無理に
とは言いませんけど……」
「何だろう。何でも言ってくれ。一緒に死んでくれと言うのなら、死んでも良いぞ」
昇は覚悟して言った。
「いいえ、昇さんは死んではいけません。ああ、貴方が何処の誰であって、その後どんな活躍をして来てい
たのかはシュナイダー博士やその他の人達に直接、間接に聞いて知っています。
本当に素晴しいです。さすがは私の愛した人ですね。貴方に、林谷昇さんに、嘘でも良いですから、愛し
ていると言って欲しいのです。
本当にとんでもないお願いですが、何とか曲げてお願いします。その言葉さえ聞ければ、私は本望です。
喜んであの世へ旅立てます。お願い出来ますでしょうか?」
ユウカリは不安気ながら、それでもしっかりと言うべきことを言ったのである。
「本当にそれだけで良いのか?」
「はい。どうかお願いします!」
「分かった。ふう、少しだけ待ってくれ。今気持ちの整理を付けるから」
昇は大いなる嘘を付く事に決めた。
『もし、愛してると言った途端に、一緒に死んで欲しいと言われたら、迷わず死のう。しかし、どうやったら死
ねるのかね? 手も足も何も無いんだけどね。いや、それは彼女にお任せしよう。
これだけの奇跡を起しているのだ。何とかなるんじゃ無いのか? それとも、少し遅れて核爆発と共にく
たばるかだ!』
十数秒間で死ぬ覚悟をキッチリ決めてから言葉を発した。
「ユウカリ、俺は、心底お前を愛しているよ。誰よりも、誰よりもお前を愛してるよ!」
一言一言噛み締めながら、はっきりと日本語で言った。その後の反応をじっと耳を済まして聞いていた。
「きゃはははは、ヤッターッ! 凄い、愛の告白だ! バンザイ! 嬉しい、本当に嬉しいですう! もう、
やっちゃうもんね! べろんっ! べろんっ! べろんっ!」
突然、声はチュチュに変った。無論英語だった。しかも三枚舌の愛撫が突然始まった。チュチュの猛烈
な攻勢にサムライに戻った昇は、意表を突かれて、あっという間に絶頂に達してしまったのである。
「おいおい、お手柔らかに頼むよ。もう直お仕事なんだからね。真っ最中に博士から連絡が来たらちょっと
拙いよ」
「そんな事を言われたって、もう、超嬉しいんだもの。さあ、二回目行きますよ。うふふふ、もうこんなに大
きくなっちゃって!」
「フリーズ! フリーズ! フリーズ!」
慌ててサムライは、一時的機能停止の呪文を唱えたのである。
『ふう、やれやれ、本当にちょっといけない子だねえ。しかし、一体どうなっているんだろう。突然ユウカリさ
んからチュチュに変っちゃった。しかも妙なのは、チュチュが日本語の意味を知っていたんだよね。
ああ、さっぱり訳が分からないけど、ユウカリさん、あれで満足して、あの世へ旅立てたのかな? まあ
そう考えておこう。俺の死を求めなかったという事は、やはり生きていて欲しいと思っていたんだろうか?』
サムライは少考してから、生きる方の選択をした。
「ああ、私だが、そろそろ、出発して貰うよ。気持ちの整理は付いたかね?」
博士からの連絡が突然入って来た。
「はい。何時でもOKです!」
吹っ切れたのか、サムライはキッパリと言い切った。一度膨張し切っていた彼のペニスは急速に萎んで、
今はお子様サイズになっている。
「まあ、出発と言っても、これから準備作業に三十分位は掛るけど、その間、チュチュとエッチしていても
良いし、まあ、得意の昼寝をしていても良いですよ」
シュナイダー博士は昇が昼寝を得意としていることも知っていたのだった。
「はははは、今チュチュは眠っていますよ。さっきまで大ハシャギでしてね、煩いからフリーズさせちゃった
んですよ。
そのう、エッチの方は一度やっちゃいましたから、今はスッキリしていますから、大丈夫ですよ。一応起き
て作業を見ていたいのですが宜しいですか?」
「ああ、別に構わんよ。まあ、退屈な作業だから、別に眠っていても良いけどね」
「はい、好きにします」
「作業と言っても、格納庫の蓋と言うか、前方の遮蔽壁を左右に開閉して、それから繋いでいた、幾つか
のロープを外すだけ何だがね。
作業員が君の周りをうろちょろするが、気に掛けない様にお願いしたい。尚、今回は全員が宇宙スクー
ターでそこへ行く。
間も無く着くところだが、私が言わば総監督みたいなものだから、少し離れたところから、ああだこうだと、
指図する。
その為に作業終了までは私からの連絡は無いからね。それじゃあ、また後でな。ああ、そうそう、行き先
を言うのを忘れていたが、月の裏側のラグランジュ点になる」
博士は一番肝心な事を今頃になって話したのだった。
「ラグランジュ点?」
「ああ、そうだ。月と地球のラグランジュ点は幾つかあるが、その内の一つじゃよ。まあ、厳密に言えば少
し違うのだが、詳細は後で言う事にするよ。じゃあ、通信はこれで一旦停止!」
博士の停止の言葉の後は通信は全く無くなった。その代わりというのか、十人ほどの宇宙服を来た連
中が各々宇宙スクーターでやって来て、早速作業開始である。
『ううむ、俺のペニスの上に張り付いているチュチュがばれないか、どうも心配だな。こりゃ気になって堪ら
んな。やっぱり博士の言う通り一眠りしよう。そう言えば何だか疲れたな……』
サムライは眠らないと強情を張ったのだったが、どうしても眠らずに居られなくて、結局眠ってしまったの
だった。
「サムライ君、起きてくれたまえ。サムライ君!」
突然博士の声が響いた。
「えっ! ああ、あのう、何でしょうか?」
「はははは、随分気持ち良く眠っていたのだね。君を格納庫から出す作業は終了したのだよ。作業員は
全員自分の持ち場に帰って行った。
これからいよいよこっちの指示に従って、月の裏側にある、ラグランジュ点L2に向かって貰う。その為に
先ず月を目指す事になるが、心の準備は良いかね?」
「は、はい。ふう、当分地球ともお別れですね」
「ああ、そうなる。月の裏側のL2まで到達した人類は、まあその必要も無いからだが、居ないからね。未
知の領域と言って良いだろう。
ただ、L2には、幾つかの観測衛星があるのだが、今回は余り接近はしない。理由は分かると思うが、
強力な電波望遠鏡や赤外線検出装置などを持っていることが多いので、我々の通信が傍受されないとも
限らないからね。
まあ、前にも言った通り、傍受されても暗号にしてあるから解読される事は無いと思うが、用心するの
に越した事は無いからね。では、月を目指してゴーッ!」
博士のゴーサインで、サムライは意識スイッチによってロケットエンジンに点火、先ずはひたすら月を目
指したのである。
『地球から月までの距離は約38万キロ。それでもニューケッペルスターだったら数時間で到着だ。ああ、
地球が段々遠くなる。それにしても孤独だな。はははは、これは堪らんぞ。仕方ない、チュチュに起きて
貰うか』
サムライは飛行開始から二十分もしないうちに、その孤独感に音をあげた。
「オープン! オープン! オープン!」
「ハーイ、ご主人様、ノボル様、おしゃぶりの時間ですかぁ!」
チュチュはもうエッチ三昧の積りである。
「はははは、相変わらずだな。いや、今はお話をするだけだ。月の裏側にあるL2に向かっているんだけど、
何か退屈でねえ」
サムライは孤独で寂しいとは言わなかった。
「えーっ! エッチの他にどんなお話があるんですか?」
「エッチ以外に何か無いのかな? 博士からはエッチだけを教わったのかな?」
「うん。えーと、他には愛の囁きとか、聞き上手になる様にとか、あと、ええと、ああ、その疑問を聞くことで
す。それじゃあ、早速行きますよ、その、L2って何ですか?」
「ああ、L2ね。Lは十八世紀末から十九世紀初頭に活躍したイタリア生まれで、主にフランスで活躍した
大数学者ラグランジュの頭文字のLだと思うんだけどね。
俺も博士から簡単に聞いただけだから、上手く説明出来るかどうか分からないけど、一応言ってみるよ。
良いかな?」
「勿論ですう。ノボル様のあそこをチロチロしながらまったりと聞きましょう」
チュチュは何処までもエッチと関わりたい様である。
「しょうがない奴だな。だけど、余りやり過ぎると、気持ちが良過ぎて困るんだけどねえ。コースのずれが
あったら逐一博士から連絡が入る事になっているからね。
L2に着いたら少しお休み時間があるようだから、エッチはそこでたっぷりしようよ。良いよね、だから、
舌でチロチロは無しだからね」
サムライは釘を刺したのだった。
「ううん、じゃあ、我慢しますう。あのう、L2って何でしたでしょうか?」
「ズバリ言えば一種の静止軌道だな。ごく僅かの軌道修正さえしていれば、いつも同じ場所、宇宙空間に
居られるのさ。惑星やその衛星の近くにいつでも居る事が出来る。
そういう都合の良い場所だから、世界中が観測衛星を打ち上げている。それから月と地球の中間、と
言っても随分月に近い位置なんだけど、何台かの宇宙ステーションが建設されている。そこはL1と呼ば
れる位置なんだ」
「ふーん、それでそれがどうかしたのですか?」
チュチュは興味無さそうに聞いたのだった。