夏 休 み 未 来 教 室
春 野 夢 男
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「クラストファー大統領が何か言って来たのですか?」
「ああ、電話で連絡して来たのだが、あれほど哀れな大統領の声は初めて聞いたよ。これは絶対に秘密な
のだが、彼は若かりし頃、結構な遊び人だった。お決まりの女遊びで、レイプ、妊娠、そして殺人。強盗ま
でやっていたんだそうだよ」
「ゲッ! はははは、まるで金森田玄斎みたいだ。しかし良くばれなかったな。そんな極悪非道な男が、ア
メリカ大統領?」
「私も最初聞いた時には耳を疑ったよ。しかもその仲間だった男が実はゴールドマン元教授だったのさ。更
に悪い事には教授は金森田と関わり合いがあった。
知っていると思うが、ゴールドマン元教授は大の日本びいきで、日本にしばしば旅行に行っていたのだ
が、その時に金森田と知り合っていたのだよ。
ただ、それは若い頃だけの話で、長いこと行き来は無かった様だがね。しかし、ゴールドマン元教授は、
しばしば彼から金銭を受け取っていた。寄付金名目で間接的にね。そしてそのお金の一部は大統領にも
渡っていた」
「へえーっ! それは一大スクープだ。悪魔の様に恐れられている、ダウクーガーと深い関係があった等
という事になったら、大統領一個人の問題じゃ済まなくなるね」
サムライは余りの事にやや呆然として聞いていた。
「その通り。しかもまだまだ色々あってね、一々言ってもいられないが、兎に角、アメリカがひっくり返るよう
な事がごっそりあるんだよ。
さっき言った若かりし頃の事件は、とんでもない決着になっている。別人を犯人に仕立て上げて、まあそ
の男も凶悪な犯罪者だったから、上手く行ったらしいのだがね、それには当時の検察や弁護士、裁判官、
更にはメディアの親玉やマフィアまで絡んでいたようだよ」
シュナイダー博士は自分で言いながらも少し呆れ気味だった。
「へえ、つまり大統領はお金持ちだった訳だな」
「そういうこと。祖父が一代で大富豪にのし上がった一家の三代目。生まれながらの遊び人が出来てしまっ
たという訳さ。金は唸るほどあるからね。普通の女遊びじゃ物足りなくて、レイプに明け暮れていたらしい」
「ふうん、正に金森田だね。しかし良くまともになったね。普通はそのまま死刑台行きなんじゃないのかな。
まあ、親が尻拭いをしたという訳なのかな?」
「まあ、そういう事になるだろうね。さすがに、そこいら辺りで目が覚めて、キッパリ悪の道から足を洗って、
猛勉強してね。
そして、ついには世界のトップクラスの大学を主席で卒業して政界入りしたんだよ。まあ、そんな事があっ
て何時ばれるかハラハラしていたんだろうけど、そこはアメリカの大統領、誰に何を言われても、過去の
事件は既に犯人が処刑されて決着していたんだから安心していたんだろうね。
しかしゴールドマン元教授は動かぬ証拠を握っていたし、その事は金森田の知ることになった。ビデオが
残っていたんだよ。
よせば良いのに、本人が撮らせたものだった。レイプや強盗、殺人の様子まで、鮮明に映っていた。そ
のテープのコピーが大統領宛に送られて来たらしい」
「へえ、普通は処分するんじゃないんですか?」
サムライは意外に思って聞いた。
「普通はね。無論クリストファー大統領もそう思っていたようだ。しかし、彼の若かりし頃の何人かの犯罪
仲間が密かに隠し持っていた様なんだ。そう数は多くは無いが画面はとても鮮明なのだそうだ」
「しかし、良くそこまで大統領が正直に言いましたね。普通話さないでしょう?」
「いや、殆どは金森田から聞いたのだよ。彼をニューケッペルスタータイプのサイボーグにしてからね。大
統領から聞いたごく断片的な話と、見事に一致するから嘘では無いだろうよ」
「ふうむ、だけどどうして、金森田はニューケッペルスターになることを望んだのでしょう。あの男の事は何
時も良く分からないのですがね」
サムライは迫り来る殺意を必死で隠して平然とした態度で聞いたのだった。
「詳細は後で本人に聞いてくれたまえ。私にも彼の考え方は理解出来ないのでね。ああ、そろそろ、L2で
すね。それじゃあ、燃料の補充を先にして、それが終り次第、核ミサイルの搭載を実施しますよ」
シュナイダー博士はその辺で説明を一応終った。
『金森田を殺すチャンスが来たな。ううう、もっと早く確実に殺しておくべきだった。ううむ、一体何を考えて
いるんだあいつは!』
気持ちが大きく揺れた。ただその領域では合計で四機のケッペルスターが接近して宙に浮いていた。ピッ
タリ平行移動する為の微調整も終わり、金森田のニューケッペルスターからは七、八名の宇宙服を着た
作業員が宇宙スクーターでサムライの機体に接近して来たのである。
燃料を積んで来たケッペルの操縦する機体からホースを伸ばして、液体燃料の補給を始めたのだった。
ケッペルは操縦席からは出て来ない様である。
「怒っちゃ駄目だよ!」
作業の様子を見ながらも、何とかして金森田のニューケッペルスターを破壊する事を考えていたのだっ
たが、それまで完全に沈黙していたチュチュがいきなりそう叫んだのだった。
「べ、別に怒ってなんかいないよ。それにしても脅かすなよ、いきなり。ビックリするじゃないか」
心の中を見透かされたみたいだったが、サムライは何とか誤魔化そうとした。
「嘘だ。ご主人様は嘘を付いている。私の大、大、大好きなノボル様が泥棒になっちゃ嫌ですう」
「おいおい、何処から泥棒ということになるんだ?」
「だって、嘘吐きは泥棒の始まりと言いますから。チュチュにはノボル様が気持ち良いかそうで無いか、
すっかり分かっちゃうんですからね。
興奮しているのにハァハァしていないから、きっと悪いことを考えているって分かるんですからね。そう
なんでしょう?」
「ま、参ったな。ああ、分かったよ。俺が悪かった。ああ、何だかむしゃくしゃするから、二、三発やってくれ
ないか? まだ暫く燃料の補給とか核ミサイルの搭載とか時間が掛るからね。その約束だったしね」
サムライは少し食いつかれて煩そうだたので、取り敢えずエッチに逃げる事にした。
「ハアーーーイッ! 待ってました! それ、じゅる、じゅる、じゅる、……」
「はははは、もう、助平な奴だな。もう、エッチに目が無いんだからな。ああ、気持ち良い。ああ、嫌な事は
皆忘れてしまおう!」
「そうですよ、人間エッチが一番なんですからね!」
凄い行為の割にはあっけらかんとした会話をしながら、二人は心行くまでエッチ三昧を続けたのだった。
三時間ほどで全ての作業は終了した。
その間、もう何度果てたか分からないほどだった。チュチュのお口によるご奉仕は、殆ど途切れる事無く
延々と続いたのである。作業の終了に合わせて、二人のエッチ三昧も終了した。
「ああ、シュナイダーだが、全ての作業は終了した。我々はここで見送らせて貰う。予定通り、小惑星ニュー
アメリカに向って出発したまえ。
ええと、それから、その、ちょっとあれ何だが、金森田君から話があるそうだ。嫌かも知れんが一応聞い
てくれないか。
ここは月の裏側だから、ここでの電波や我々の姿は無論ここにいる者の他は誰も知らない。遠慮なく話
し合ってくれたまえ」
意味有り気に博士はそう言った。
「はい。了解しました。じゃあ、先ず、その話とやらを聞きましょう。ああと、どうすれば良いのですか?」
「ああ、言い忘れていたな。計器盤を意識スイッチで呼び出してくれたまえ」
「はい、呼び出しました」
「画面の左下の方に、見慣れない金色のボタンがあるだろう?」
「ああ、そう言えばありますね」
「それを押せば、彼との回線が通る。もう一度押せば切れる。ただし、一度押して金森田と通信中は我々
とは繋がらない様になっているから気をつけたまえ」
「了解しました。それじゃあ暫くお話しましょう。ああ、出発が先でしたね。じゃあ、エンジン点火!」
やはり意識スイッチを利用して、サムライのニューケッペルスター1号機はゆっくりとその場を離れて行っ
た。それから少し間を置いて、金色のボタンを押してみた。
「回路を開いたぞ、金森田!」
サムライはあえて呼び捨てにした。
「ふふふふ、久し振りだね。いや、人類の救世主様とこうして一緒に仕事が出来るのは何とも嬉しいねえ」
「ああ、それはどうも。それで話というのは何かな?」
「なあにね、君には失敗して貰おうと思ってね。馬鹿なシュナイダー博士やその他の連中を上手く騙したの
だよ。
一応言って置くが、君の機には時限爆弾が仕掛けてある。まあ、大した爆発力じゃないから死ぬことはあ
るまいよ。しかし、小惑星ニューアメリカには到達出来ない筈だ。
君は、林谷昇君は、永遠に宇宙をさ迷うという寸法なのさ。おっと、エンジンはもう止らんよ。それと私と
の回路は切れないですよ」
「な、何だって! くそっ!」
サムライは慌てて金色のボタンを押したが、確かに金森田の声が聞こえ続けている。意識スイッチでエン
ジンを止めようとしたが、やはり止らなかった。
「一体何をしたいんだお前は!」
サムライは思わずそう怒鳴った。
「あはははは、私が地球の支配者になるのだよ。その為には君が邪魔なのさ。いつも何時も君は甘ちゃん
で、私を取り逃がしたり、取れる命を取らなかったりした。
逆に言えば、天は私に味方しているのだよ。上手く行けば君は人類の救世主として大いに崇められると
ころだった。
しかし最後の最後、土壇場で私に足元をすくわれる。なあに、大した事は無い。数日後には核ミサイル
の塊がニューアメリカに向って発射されるが、どうせそれも失敗に終る」
ニューケッペルスター2号機の金森田は恐るべき事を言い始めたのだった。