夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

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『く、くそう、何時もそうだ。大抵金森田の方が一枚上手なのだ。折角この間のダウクーガー事件の時、殺
せるチャンスがあったのに、俺は殺さなかった。
 何故殺さなかった? 確かに殺すなという指令があった。しかしその気になれば殺せた筈。あああ、俺は
甘い男なのだな。
 それにしてもどうしてこいつはここに居る? 地上に居ても良いのではないのか? こんな如何にも機械
と人間の合いの子で彼は納得しているのか?』
 サムライは一度に噴出して来る数多くの疑問に、自分では答えを見出せなかったので、本人に聞いて
みることにした。

「人の事を言えた義理じゃ無いけど哀れな格好だな。イケメンのサイボーグにでも生まれ変われば良かっ
たんじゃないのか?」
「ふふふ、そう言うだろうと思っていたよ。だが君も私の用心深さは知っているだろう? サイボーグの人
間タイプになって居たりしたら、破れかぶれになった大統領が俺を殺しに来るかも知れないじゃないか。
 しかしここは宇宙だ。しかも俺の体内には七人の男の宇宙飛行士と三人の俺の愛人とが乗っている。
つまり俺は体の中に十人の人質を監禁しているのと同じことになるのさ。
 昇君、君だって私が普通の人間タイプだったら、何らかの方法で始末する積りになったろう? 私の読
みは外れているかな?」
 金森田の読みは相変わらず鋭かった。

『くそっ、確かにそうだ。殺害を考えたけど十人の乗組員の事を考えれば、そう簡単には行かなかった。む
しゃくしゃしていたのはその為もあった。しかし、それで地球の支配者になれるのか?』
 そう思うと、やはりかなり疑問だったので再び聞いてみることにしたのである。

「ふん、しかし、今の状態だったら地球の支配者にはなれまいよ」
「はははは、どうやら図星でしたね。それはそうと、心配は要らないですよ。ノアシティもあることだし、現在、
ノアシティは急ピッチで私好みに改造されている。
 私がこの格好で居るのは今の内だけですよ。どうしてそうしたと思いますか? 無論さっき言った理由も
あるが、君の様子をこの目で確かめたかったのですよ。
 私の意に反して時限爆弾をセットしなかったり、君のエンジンコントロールが私の手中にある様にしなかっ
たりしないかどうか、つまり裏切り者があるかどうを確認しないと拙いのでね。
 ここは月の裏側。私が地上に居ては様子が分からないし、君の無様な姿も見たかったしね。ああ、しかし
どんどん遠くなって来ましたね。加速が止らないから、離れて行くスピードも格段に速い。
 うーん、無線連絡もかなり厳しくなって来ましたね。それじゃあ、林谷昇君、永遠にさようなら。大丈夫、ど
の天体にもぶつからない様に配慮しておきましたから」
 如何にも余裕を見せて言った。お互いの言葉が少し聞き取り難くなって来たので、金森田は言って置き
たい事を更に早口で捲(まく)し立てた。

「ああ、そうそう、一つ言い忘れておりました。君は私が地上の支配者になれないと思って居るかも知れな
いが、それは大丈夫。
 地上の人類は全滅して、ノアシティを始めとする幾つかの地下都市のみが生き残る。億単位の人類の
長になるのは難しいが、高々数十万程度の人間どもの長になることだったら、容易い事だ。
 地下に住めるのは皆私好みの女達だけですからね。まあ、奴隷として男も少々飼って置く事にするがね。
私はついに自分の夢を実現するのですよ。
 意にそぐわない連中を皆殺しにして、私だけの王国を作る。私はサイボーグとして永遠に生き続けるの
ですよ。
 はははははは、何と楽しい事でしょうかねえ。いよいよ本当にお別れです。最後のお土産です。地上の
人類滅亡までもう二ヶ月ほど。
 Xデーは年末の12月25日、アメリカ東部時間で丁度午前零時。よりにもよってキリスト生誕の日になり
ました。
 最高のクリスマスプレゼントですよ。神はこの私を祝福しているのですね。もっとも、この私がもう間も無
く神になるのです。それじゃあ、グッバイ!!」
 金森田玄斎は最後の別れの一言だけ英語を言った。楽しくて仕方が無い。そんな感じだった。

『く、くそ。ああ、何もかもあの男の思い通りなのか。色々あったが、最後に笑ったのはあの男だったな。
しかし何という途方も無いことを考えるのだ。
 殆どの人類を皆殺しにして、残りの数十万の王になると言うのか。俺には想像も付かない考え方だ。
ううむ、拙いぞ、どんどん加速しているし、確かに惑星の無い宇宙へ進んでいる。燃料が無くなったら、
絶対に地球にも、月にも、その周辺には戻れないぞ。どうする?』
「ご主人様、何か様子が変ですけど、どうしたんですか?」
 いきなりチュチュが言った。金森田との会話は日本語だったのでチュチュには分からなかったらしい。

「ああ、とんでもない事になったよ。金森田という大悪党がね、私達を宇宙の果てまで飛ばしてしまおうと
しているんだ。エンジンが止らなくて困っている。
 それと核ミサイルの所に時限爆弾を仕掛けたらしい。あっと、そうだ、チュチュは動けるんじゃないの
か?
 八本足のクモみたいに、ああ、いや、今のは失言だ。何とかカバーを外して、先ず時限爆弾を外して貰
えないかな?」
 すぐ失言を取り消して、駄目元で言ってみた。

「ノボル様、聞き捨てならないことを言ってしまいましたね。私はクモなんですか? 幾らなんでも酷いで
すう」
「分かった。今の言葉は、さっきも言ったけど、失言だ、謝るよ。御免なさい」
「えへへへ、嘘だピョン! チュチュはノボル様の事を最高に愛しているから、何でも許しちゃいますう。
問題が二つあるんですね」
「ああ、一つはエンジンが止らない事。このままだと太陽からどんどん離れて行って、そのうち二人とも動
けなくなってしまうよ。太陽光をある程度利用しているからね。
 実際少し寒い感じになりつつある。あと二、三週間で二人とも凍ってしまうだろうよ。エッチは全然出来
そうも無いな。仕方が無いから今の内にたっぷりやっておいて、後は氷漬けになるか、一緒に」
 半ば諦めた様な言い方をサムライはした。

「ノボル様、諦めてはいけませんよ。やれる所までやってみますう。チュチュはご主人様と何年も何十年も
エッチし続けたいですから。蓋ははめ込み式だったですよね?」
「ああ、ただし、簡単には外れない様に、何ヶ所かバネを使ったかみ合わせ式になっている。普通は道具
を使わないと外れないと思うけどね」
「ふふふふ、ご主人様、チュチュのエッチパワーを甘く見ていますね。えーと、重力加速度が0.1Gほど
掛っていますから、ええと、……」
 チュチュはしきりに体内のコンピューターを使って計算をしているようだったが、
「それでは行きます!」
 かなり大きな声で叫んでから、それまでサムライのペニス付近にくっついていた体をそれこそクモが足
を伸ばす感じで踏ん張ったのである。

「バキィッ!」
 そんな音が響いて蓋が吹き飛んで行った。
「ふう、ちょっとしんどかったですが何とか上手く行きました。今のをちょっと解説させて下さい」
「解説? ま、まあ、どうぞ」
「えっへん。今難しかったのは、力を入れ過ぎて、チュチュまでノボル様から離れてしまわないか、その力
の入れ具合が難しかったのです。でも割合簡単でした。
 考えてみればチュチュの足は吸盤の様になっていて、ご主人様の体にへばりついていたので、そう簡単
には飛んで行かなかったんですよ。でも、偉かったでしょう?」
「ああ、上出来だよ。ご褒美に一杯エッチしたい所だけど、一番肝心な時限爆弾を処理しないと大変だか
らね。何しろ核ミサイルにくっつけてあるらしい。
 下手をすると、誘爆して核爆発が起こるかも知れないので、慎重に外す必要があるけど、何とかそれも
頼めるかな?」
「はあーい、お任せ下さい。チュチュの目で見たものをご主人様にも見させて頂きますから、どうすれば良
いのか指示して下さい。それでは逸れたりしない様に、慎重に行きます」
 如何にも慎重そうな声を出して、チュチュはゆっくりとサムライの体の下部中央辺りに下りて行った。八
本足の先の吸盤を駆使してどうやら爆弾の直ぐそばまで辿り着いた様である。

「ああ、ご主人様、見えていますか? 赤く光る文字で爆発までのカウントダウンがされていますよ」
「うん、良く見えているよ。分厚い辞書位の大きさだね。しかしチュチュの目が俺の目と一緒になるなんて
初耳だぞ。
 おっと、のんびりはしていられないな。うあっ! カウントダウンは後五分になっているじゃないか。こりゃ
拙いぞ!
 えっと爆弾はどういう風にくっ付いているか分かるか? こっちから見た感じでは余りはっきりしないん
だけどね。ボルトとかを使っているのか?」
「ああ、いいえ、接着剤で簡単にくっ付いているみたいです。うーん、駄目です取れません。ああん、困りま
したあ」
 さすがのチュチュも少し焦りだしている様だった。

『うーん、接着剤ね。ううむ、どうすれば取れるかな? ええと、うーむ、ええと、ええと、そうだ、やってみる
だけはやってみよう』
 些細なアイデアだったが今の所はそれしか思いつかなかった。

「ああ、チュチュ、そこは光が当たっているよね? かなり熱いんじゃないか?」
「はい。でも、角度が太陽と平行に近いですからそう温度は高くありません」
「成る程。それじゃあ、チュチュが光を遮って、爆弾の所を低温にしてくれないか?」
「はい。言われた通りに致します。……大分温度が下がって来ましたけど、これでどうなるのですか?」
 チュチュにはサムライの考え方が理解出来なかった。

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