夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

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「どうだ、何か変化があったか?」
「いいえ、余り、変化は無いみたいですけど」
「試しに少し押してみてくれないか? ゆっくりと無理はしないようにね」
「うん、今やってみる」
 サムライの目にもその様子は良く見えていたが、解像度に違いがあって詳しい所までは分からないので
ある。

「あっ! 少し動きました!」
 チュチュは大声で叫んだ。
「そ、そうか。やっぱり俺の考えはまあ偶然だけど、当たっていたな。ずっと以前の事なんだけど、くっ付いた
チューインガムを取るのに超低温にするって聞いた事があるから、まあそれを真似したんだけど、上手く
行ったね。
 それじゃあ、兎に角光を当てない様にして、少しずつ動かして、早いとこ取り外して投げ捨ててくれないか。
早ければ早いほど良いけど、無理はしないでくれよな。
 それと投げ捨てたら一旦元の位置に戻って来てくれ。何か嫌な予感があるからね。ああ、エッと残り時
間はどの位だ?」
 徐々に緊張感が高まって来ていたが、このような時には、慌てる事が一番の大敵だと考えて、あえての
んびりした調子で言ったのである。

「残り三分になっているよ。ああ、もう外れたからとっとと捨てるね」
「一応言っとくけど、投げる方向は当然進行方向とは逆の方向だよ。なるべく離れて置きたいからね。そ
れとさっき言ったように、直ぐ元の位置に戻って来てくれないか。一応ご褒美をあげようと思うからね。」
「えへへへへ、やった! それっ!」
 チュチュはサムライの意図を汲んで、ゆったりと後方に、無論エンジンの噴射に当たらない様に投げ捨
てた。
 そもそも時限爆弾の中には当然ながら爆発物が入っている。力を込めて投げたのでは、そのショックで
爆発しないとも限らないのだ。

『ああ、上手く行った。しかし加速度がゆるいから余り離れてくれないな。爆風がやって来るぞ。チュチュよ
早く戻って来い! それから俺の陰部に思いっきり吸い付け! ああ、早く戻って来い!』
 サムライはこの時、正に本心から心配していた。生き物だかロボットだか分からなかったが、本気で好き
になって居たのかも知れない。

「えへへへ、到着! じゃあ、遠慮なく頂きます。あはん、嬉しい!」
 チュチュは上手い具合にサムライの陰部のへこんだ所にすっぽり入って、直ぐ三枚舌を使って全力で
愛撫し始めたのだった。

「ガガガガガガッ!」
 その直後だった。機体が激しく揺れた。時限爆弾が炸裂したのである。予定時刻の90秒前だった。
「キャアッ!」
「ウアッ!」
 危うく振り飛ばされそうになって、チュチュは思わずサムライの一物にかぶりついた。本当だったらそれ
こそ激痛ものだったろう。
 幸い痛みの感覚は通常の百分の一程度に抑えられていたので、何とか耐える事が出来た。勿論本物
のペニスでは無いし、宇宙空間の過酷な状況に耐えられる様に、かなり丈夫に出来ていた事も幸いした。

「イタタタタ……」
「あああ、御免なさい! でもどうして爆発したのかしら。まだ一分以上の余裕があったのに!」
 チュチュは信じられないといった感じで言った。
「ふふん、金森田のやりそうなことだ。些細な爆発と言っていたけど、今のレベルだと核爆弾の誘爆も十分
に有り得る。
 いや、端からそれを狙って居たのかも知れないな。あいつは昔からそういう男だからな。チュチュ、大丈
夫か?」
「うん、大丈夫だけど、大ショックだったよ。ノボル様は最初から知っていたのですか、早く爆発するって」
「いや、そんなことは想像も付かなかったけど、あいつとの付き合いが長いからね。言っている事やカウン
トダウンを鵜呑みにするのは危険だと思ったのさ。
 でもそんな事を言ったら、落ち着いて作業出来なくなるだろう? 焦ってかえって失敗するかも知れない。
そう思ったから、わざとそんな事は言わずに暢気な感じで言ったのさ。ああ、しかし良かった。
 今、計器類のチェックをしているんだけど、どうやら破損は無さそうだ。ふう、ところでチュチュ落ち着いた
か?」
 少し酷だとも思ったが、何しろ時間が無かった。今度はロケットエンジンの制御をしなければならないの
だ。しかもゆっくりはしていられない。時間が経てば経つほど戻るのが困難になるからである。

「……、うん、大丈夫だよ。今度はエンジンの制御だったよね。先ず止めるのかな?」
「ああ、悪いけど、早くしないと宇宙の藻屑になるというか、氷の塊になる恐れがあるからね。金森田は何
処にもぶつからないと言ったけど、あいつの言う事は皆嘘だと思った方が良い。もっともぶつかってもぶつ
からなくてもどっちにしても終わりに違いないけどね」
「具体的にどうすれば良いのかな?」
「ああ、ちょっと危険だからそれこそ慎重にして欲しいんだけどね」
「で、どうするの?」
「ロケットエンジンのそばに緊急停止用のレバーがある。外部からしか操作出来ないんだけど、厄介なの
は二つのエンジンをなるべく一緒に止めないと拙いということなんだ。
 本来は一つのエンジンが不調の場合の緊急用なんだけどね。知っていると思うけど、金森田が細工し
なければ俺が意識スイッチで止められるんだけど、全然反応しないんだよね。
 しかし外部スイッチは物理的なスイッチだから、まあ、レバーなんだけど、一つのレバーを操作してエン
ジンが停止したら、直ぐもう一方のエンジンも停止しなきゃ駄目なんだよ。
 そうしないと機体がぐるぐる回って手に負えなくなるからね。とても危険な作業だけどやってくれるかな? 
まあ、無理にとは言わない。その場合はエッチ三昧をして二人一緒に滅びるしかないよね。
 でも、それも良いかも知れない。今改めて考えると、とんでもなく危険なことに気が付いたよ。もう、ここま
でで良い事にしようか……」
 チュチュに言いながらサムライはユウカリの事を思い浮かべていた。

『超危険なことを、俺はチュチュにやらせようとしていた。はははは、状況は違うけど、ユウカリの場合と似
た様なものだよね。他にも何人も犠牲にして来た。
 しかし結局俺は金森田には勝てなかった。はははは、あんな男が神に選ばれし者なのか。ああ、悔しい
けど、人類、数十億の皆さん。どうやらここまでのようです。さよなら。
 こうなったら命のある限りチュチュとエッチして滅びましょう。はははは、何て情けない。しかしどうにもな
らないのだ』
 サムライは、いや、もうそう言う必要もない。林谷昇は諦めたのだった。

「ご主人様、諦めちゃ駄目ですう。でもその前に、ご褒美は頂きますよ、うぐ、うぐっ!」
 何を思ったのか、チュチュは猛烈に昇の一物を愛撫し果てさせたのだった。
「えへへへへ、ノボル様、美味しゅう御座いました。それではこれからエンジン停止に行って参ります。上
手く行ったらお慰みですう」
 チュチュは相当の決心をした様である。下手をすればエンジンに吹飛ばされるかも知れないし、一つ目
のレバーの操作が上手く行ったとしても、その後の二つ目のレバーの操作は相当に難しい。
 機体は一方のエンジン停止で直ちに回転を始めるからである。たとえ両方止められても、機体の回転
を止める事が出来ないかも知れないのだ。
 機体が激しく回転した場合、その遠心力によってチュチュは弾き飛ばされてしまう恐れがある。しかも、
そうならなくとも、その回転に今度は昇の脳が耐えられなくなるかも知れないのだ。

『待てよ、さっき金森田は話が出来なくなると言ったよな。実際もう何も聞こえない。ということは金森田の
使っている無線通信機は余り性能が良くないのではないのか?』
 そこまで考えて昇は慌てた。既にチュチュはロケットエンジンの近くまでそのクモの様な姿で近付いてい
たのである。

「ちょっと待て、チュチュ!」
「はあい、ご主人様。何でしょうか? エンジン停止の中止は言わないで下さいね。折角決心してここまで
来たのですから」
 チュチュは死を覚悟している様だった。

「いや、一分だけ待ってくれ。今やってみたい事があるんだ。それからでも遅くは無いと思うよ。良いかな。
絶対に早まらないでくれ。俺の大好きな、大好きなチュチュ!」
 普通に言ったのでは、直ぐ近くにあるレバーを操作しそうだったので、きっと躊躇うであろう、熱っぽい愛
の言葉をぶつけてみたのだった。

「えええーっ! う、嬉しい! ああん、もう一度言って!」
 案の定、チュチュは激しく反応したのである。
「ああ、何度でも言うよ。俺の大好きな、大好きなチュチュ! お願いだからちょっとだけ待ってくれ」
「うふふふふ、とうとう本音を言ったのよね。ああ、何て嬉しいんでしょう。私は幸せですわ。ああ、これで
成仏出来ます。
 長い間騙していて御免なさい。私は黄味麻呂ユウカリ。もう本当に思い残す事はありません。それじゃあ
さようなら!」
 突如として言葉は日本語に変り、声の調子も黄味麻呂ユウカリになって、別れを告げたのだった。

「ああ、ええっ! ま、待ってくれ、ユウカリさん。一体これはどういうことなんだ!」
 昇は止めようとしたが、それっきりユウカリは戻って来なかった。
「ああん、何時まで待たせるんですか? もう一分は過ぎましたよ」
 不満そうにチュチュは言った。今度は英語に戻っている。

「ああ、申し訳ない。それじゃあ、今からエンジンの停止を試みるから。逆Gが掛るから、振り飛ばされた
りしないようにしっかりと機体にくっ付いていてくれ」
「わ、分かりました。じゃあ、ここにへばり付いています。どうぞ、やってみて下さい」
 チュチュは昇の状態に何か不審を抱いたが、全てを飲み込んでじっと待っていた。

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