夏 休 み 未 来 教 室
春 野 夢 男
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「うーむ、成る程ねえ、本当の所は分からないけど、コースを外すだけだったら、もっと目立たない小さな時
限爆弾で良い訳だよね」
「はい、でも全然違うかも知れませんけど」
何か変に真面目な言い方が気になった。しかも英語が怪しい。
『ちょっとたどたどしい英語だな。本当にチュチュなのか?』
その疑問を打消す為にも、名前を聞いてみる事にした。
「えっと、チュチュだよね?」
「あっ、あの、済みません。ユウカリです」
ユウカリは観念したのか日本語で話し始めた。
「ううむ、二度と出て来ないと言った筈だけど、どういうことなんだろう?」
「分かりません。自分では出て来ない積りなのですが、自分の意志に関係なく出て来てしまうんです」
ユウカリは如何にも困った様な感じである。
「ううむ、まあ、だったら仕方が無いね。そのう、それで君は自分の姿を知っているよね?」
「はい、世にもおぞましい姿です。昇さんに愛されるなんて有り得ないと思っています。でも、でも、出来
れば愛されたいです」
「そうか、知っているんだね。舌が三枚あって、それが何に使われるのかも知っているんだよね?」
「はい。だけど私には出来そうもありません。その場面になると私は消えるみたいです。直前ではなくて、
その可能性が出た時にはですけど。
金森田玄斎にレイプされ続けているうちに、私は男性と情を交わせなくなりました。逆に一人エッチに
狂ってしまうようになりました。
多分その影響なのでしょう。お口の奉仕だけの変則的なエッチですけど、折角昇さんとやれるのに駄目
なんです。そうなるとチュチュさんの出番です。彼女は言わば私の過去を捨てたユウカリです。
それに性的に昇さんを満足させる様に作られていますので、幾らでもやれるようです。羨ましいのです
が、どうにも出来ません。
今回は数時間エッチ抜きですから彼女は現在眠っています。暫く私がお相手しますが宜しいでしょうか。
嫌だったらチュチュを起しますけど」
「いや、ユウカリさんで良いよ。どうなっているのか良く分からないけど、宇宙で一人はさすがに辛いから
ね。ところで君はチュチュが目覚めている時は眠っているのか?」
昇は一歩掘り下げた質問をした。
「少し違います。チュチュが目覚めている時には私も目覚めている事が多いです。私がチュチュをコント
ロールしていると言っても良い位です。
ただ、エッチの時には寝てしまいます。妬ましくて気が狂いそうになるからです。でも愛の言葉の時には
チュチュさんを眠らせて、代わりに私が受け取ります。
はははは、凄くずるいですね。これは言い訳に過ぎないのかも知れませんが、彼女にもお裾分けはして
いますから、許して貰えると思っています。でもやっぱりずるいんでしょうね」
ユウカリは自虐気味に言った。
「そうか、それで大体のところは分かった。あっと、意外に早くコンピューターが計算を終えたようだな。コ
ンピューターに何を計算させていたのか分かっているんだよね?」
「はい。私の脳はチュチュの脳でもありますから、彼女の理解した事は、言葉ではなく感情の推移なんか
で何と無く理解出来ます。
それと視覚も同じですから。今までの状況から推理しておよその事を把握出来ます。それに例えばコン
ピューターという言葉は英語で言っても理解出来ますしね」
「うん、成る程。かなり掴めて来たけど、その、じゃあ、今結果の報告をして貰うからちょっと待っていてくれ
ないか?」
「分かりました。英語は得意ではありませんが、なるべく理解しようと思います」
ユウカリは神妙な感じで言った。ただ、本当にユウカリ本人なのか、機械がそう言わせているのか昇に
は確信が持てなかった。
「コンピューター、ええと、それでは報告してくれ。小惑星ニューアメリカと地球との最接近を百キロ以上に
する為の最善策を。勿論月との衝突は論外だが、その条件で可能かどうか」
「お答えします。現状では不可能です。核ミサイルの威力が小さ過ぎます。また百キロ以上にするという
条件も厳し過ぎます。
条件の緩和があれば、ある程度は可能です。ただしその場合でも、タイミング的には一時間以内に実行
する事をお勧めします。
それ以降では条件の緩和があっても不可能です。条件の緩和をなさいますか。どの程度の緩和か仰っ
て下さい」
コンピューターは女声の英語で情け容赦なく言った。
「ううむ、条件の緩和ねえ。仕方が無い。核ミサイルをニューアメリカにぶつけたらどうか。それで計算して
みてくれ」
「分かりました。数分間お待ち下さい」
コンピューターは直ちに計算に入った。
「どうやら大変厳しい状況のようですね?」
「ああ、いきなり不可能だと言われてしまった。それで条件面での緩和を求められたんだけど、もう地球は
無傷では済みそうも無いぞ。しかし事実は事実だ。受け入れざるを得ない」
「あのう、私達はどうなるのでしょうか?」
「残念ながら、宇宙の藻屑になるのかも知れない。しかし地球がボロボロになるんだからね。ここで滅んで
も仮に地球に帰れたとしてもやっぱり滅びるんだから、似た様なものだろうけどね」
悲壮な雰囲気が漂っていた。
「計算終了しました。最善を尽くしても、地上高二万メートルにしかなりません。それでも宜しければ、直ち
に行動された方が宜しいです。遅くなれば成る程、危険度が高まりますから」
「分かった。ただ、私達が地球に、地球近傍百万キロ以内に戻れる可能性はあるのかな?」
「少々お待ち下さい、数秒で結果が出ますから」
昇は結果が出るのをじっと待った。
「不可能です。その為には条件緩和が必要です。緩和しますか?」
「うーん、だったら一千万キロ以内はどうだろうか?」
「少々お待ち下さい。結果が出ました。不可能です。条件緩和しますか?」
「ええと、だったら一億キロ以内にしてみてくれ」
「はい。可能です。ほぼ火星と同一軌道上に乗せる事なら可能だという結論に達しました。勿論生命維持
の条件付です。ただしこの機には最長で一年の生命維持機能しかありません。
それで宜しければ一分以内に決断して下さい。それより遅れますと更なる条件緩和が必要です。あと五
十秒、四十九、八、七、……」
コンピューターは今度は秒読みを始めた。
「わ、分かった。それでは今言った一億キロ以内の条件で、直ちに実行してくれ」
「了解。秒読み中止。直ちに最終決断を実行致します。エンジン点火しますので準備して下さい」
「分かった。その、ユウカリさん、お聞きの通りだ。しっかり捕まっていてくれ」
「ユウカリじゃないよ! あの女がまた現れたんだね。しつこいねえ。あ、御免なさい。チュチュはノボル様
のあそこにしっかりとくっ付いちゃいますう!」
何時の間にかチュチュが起きて、喜んで昇のペニスに喰らいついた。無論そんな事をしなくても、八本足
の吸盤で、昇の陰部付近にくっ付いていさえすれば良いのだ。
それが何かと理由を付けてそうするのは、元来がその様に作られているからなのだろう。しかしそれだ
けでは無いような気が、昇にはしていたのである。
「バリ、バリ、バリ、バリ、……」
コンピューターにニューケッペルスター1号機の操縦を任せると、遠慮無くロケットエンジンを噴射して、
かなりのGを掛けて方向転換し、考えられる最善のコースを取った様である。
ただ、少々乱暴な運転だった。暫くの間3Gというかなり厳しい重力が掛っていて、チュチュのお得意の
お口のご奉仕は進展しなかった。重力に負けない様にするだけで精一杯だったのである。
勿論核ミサイルの切り離しは微妙なタイミングになるので、昇がやる事になるのだが、ニューアメリカへ
の旅はほぼコンピューターにお任せだった。
「コンピューター、ミサイルの発射はあと何日後になるのかな?」
「はい、三週間後になります。今はロケットエンジンを噴射していますが間も無く停止します。ニューアメリ
カ付近で逆噴射して減速し、ミサイルを切り離します。
そのタイミングは貴方様にお任せします。コンピューターに任せても宜しいですが、若干精度が落ちると、
事前に入力されています。それで宜しいでしょうか?」
「ああ、了解した。じゃあ、暫くは何もしなくて良いのだね?」
「はい。ただしロケットエンジンの点火や方向転換、エンジンの停止などは事前に連絡致します。それで
宜しいでしょうか?」
「それで良いよ」
「早速ですが、エンジン停止開始まであと一分。高いGが掛っていますので、一気に停止せずに、徐々に
出力を下げて行きます。停止開始まであと三十秒。……、十、九、八、……、停止開始!」
宇宙でチュチュと二人きりになった今になって、コンピューターは一つ一つ声で丁寧に教えてくれるよう
になった。これもシュナイダー博士の配慮なのだろう。
少しでも孤独感を紛らわせる様に、しかも長く持たせる為に最初からではなく、いよいよになってからに
した様である。
「チュチュ、お口のご奉仕は残念だけど週に一回に制限する事になった。目的の達成は辛うじて出来るの
だけど、その後は宇宙を暫くさ迷う事になる。
つまり助けが来るまでの長期戦だ。エネルギーは出来るだけ温存した方が良いからね。何とか我慢し
てくれないか?」
その我慢は昇にとっても辛いものだった。