夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

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「うーん、それなんだけどね。俺一人だったら良いんだけど、家族がいるからね、両親と妹が一人。父親は単身
赴任で妹は東京で働いている。母さんはパート勤めなんだけど、SH教の連中が本気出したら、人質とかに取
りかねないと思う。
 まあ、そこまでやったられっきとした犯罪だから、そこまではしなくても、脅迫とか嫌がらせとかがあるんじゃな
いのかな? 宗教にかこつけてうまくやられると、警察も動けないだろうし……」
 昇は自信無さ気に言った。

「宗教にかこつける、そうねえ、信教の自由を楯(たて)にとって、うまいことやって来るかも知れないわね」
 林果は簡単に昇を守ると言ったものの、相当に手強いという気がして来た。
「一応それと無く母さんには言っておくよ。SH教には特に気を付ける様にね」
「それが良いわね。それはそうとそのう、あ、あれはそのう……」
 林果はもじもじした感じになった。顔色は青い。

「あ、ああ、そうだね。折角ここまで来たんだし。そ、そのね、……」
 昇も訳の分からない言い方をしながら、林果を抱き締め、キスをした。ごく短いキスだった。
「ちょっと、明る過ぎるよね。明かりを落とすから、ふううっ、……」
 幾らか息が上がっている。

「パチンッ!」
 スイッチを切り替えると、辺りは薄暗くはあったがピンク一色になった。
「ふ、服を脱ごうか? いや、その、脱ごうよ」
 昇は眼鏡を外し、直ぐ上下の上着を取ってパンツ一丁になった。
「は、は、はい」
 林果もブラウスと細身のズボンとを脱ぎ、下着姿になる。出来るだけ可愛らしい、しかし露出部分の多いセク
シーさも兼ね備えた純白の勝負下着だった。

「おおお、素敵だよ。本当は白いんだろうね。でもピンクの照明でピンク色になっている。と、とっても、セクシー
だ。段々興奮して来たよ。えへへっ!」
 昇の笑いはちょっと引き攣ってしまった。言葉では興奮して来たと言ったのに、実際には緊張し過ぎて、下腹
部の物は柔らかいままだった。

「どうもその、恥ずかしくて駄目だから、一緒にべットインしようよ。見えなければ良いかも知れない」
 昇は燃え上がって来ない感情を誤魔化す為に、ベットに一緒に入る事を提案した。
『おかしいな、キラ星の時にはうまく行ったのに、今回は全然駄目だ。どうしてだ?』
 昇はキラ星とのセックスがうまく行ったのは、ベテランである彼女のリードが上手だったからである事に気が
付かなかった。

 それから間も無く全裸になって抱き合いキスも散々したが、遂に結合は出来なかった。昇の一物がどうしても
立たなかった。
「ご、ご免、うまく出来なかったよ。こういうのって、焦ると駄目なんだよね。ふうっ! それにちゃんとしたホテル
とか自宅とかじゃなきゃね。ああ、自宅は拙いけど。世間の目って奴があるからね」
 昇は失敗した事を場所のせいにした。

「うん。……私、余り魅力的じゃないのかな?」
 林果は少し落ち込んだ。香澄の事を考えると気が気ではない。
「そんな事は無いよ。こことかも最高に良い感触で、あれ?」
 昇は手で擦(さす)った時に、林果の秘部が濡れて来ている事に気が付いた。

「あああ、昇、何だか感じて来た」
「ふふふふ、嬉しい! もっともっと感じさせてあげるよ!」
 昇は林果の秘部を出来る限り愛撫した。
『せめて、林果に感じさせるだけで良い。この際思いっきりやってやる! ありゃ、立って来たぞ!』
 何よりも林果のヨガリ声が昇の下腹部を奮い立たせた様である。

 それから二十分後、とうとう挿入に成功した。林果は処女喪失の激痛に呻(うめ)いたが、昇は、部屋に置い
てあった、コンドームを使って絶頂に到達する事が出来た。
『避妊もバッチリだな。でも、赤ちゃんを作っちゃえば?』
 そんな誘惑も感じたが、今回はここまでにして置く事にした。

 行為が終っても、二人はそのまま抱き合って、幾度も幾度もディープキッスを重ねた。曲がりなりにも性行為
がうまく行って、二人がカラオケ屋を後にしたのは午後三時位だった。二時間を越えたので料金は千五百円
だった。それは昇が林果を押し切って支払った。
「多少は俺にも良いところを見させてくれよ。その代わり高い時にはお願いするからね。へへへへ、ちょっと虫
が良いけどね」
 そう言って笑わせながら支払ったのである。

 次からは林果がネットカフェ等を利用して、昇のパソコンとのチャットで連絡し合う事にしてその日は別れた。
ただ思っていた以上に別れは辛かった。

 『デ・アリータ』の地下駐車場の人目に付き難い一角で暫くキスをしてから、名残を惜しんで別れた。泣くまい
と思ったが、結局二人共に涙が零れてしまった。
 簡単に明日も会える関係ならその様な事も無いのだろうが、前途が極めて困難ゆえに、泣かずには居られ
なかったのである。

 以前にやったのと同様に、昇はバスで、林果はタクシーで別々に帰った。デートは一応成功裏に終ったのだ
が、二人の知らぬ間に、様々に事態は動いていた。

 フラワーグループのスーパー梅ノ木店内の事務室では、チェッカーの大沢木雪美が、店長の鈴木免吉と統括
責任者の岩中善文、更に、チェッカー部主任の鮎原メグミに詰問されていた。

「ちょっと、酷いじゃないの。これじゃあ、林谷君が可哀想だわ。何か訳でもあるのかしら? これって殆どいじ
めじゃないの! 訳があるんだったら言ってみなさいよ!」
 防犯ビデオに映っていた、深夜の雪美の悪口雑言を厳しく追及していたのだ。
「あ、アイツが生意気だからよ。自分が持てるからって良い気になってる。ムカつくのよ。何人も女を作って泣か
せている。女の敵よ!」
「彼が君に何かしたのか?」
 店長の鈴木が冷静に言った。

「私とは殆ど口も聞いていないわ。兎に角アイツが嫌いなのよ。顔も見たくない。それだけよ!」
 雪美は感情に任せて言った。
「ほほう、一方的に君の方が彼を嫌いで、彼の方は何とも思っていない。それが癪に障るんだね?」
 ややうがった見方を責任者の岩中が言った。

「ちょっとニュアンスが違う! 私は彼になんか、何の興味も無いわ! ただムカつくだけよ!」
「しかし、この悪口雑言は十分に言葉の暴力と言える。どうだろう、事を穏便に収める為には、大沢木君、君が
林谷君に謝罪すれば良いんだけどね。……謝罪してくれないか?」
 店長は穏やかな口調で言った。

「冗談じゃないわよ! 誰があんな男に謝罪するもんですか!」
 雪美は激高して殆ど叫んでいた。
「じゃあ、どうしても謝罪しないんですね!」
 責任者の岩中は厳しい口調で言った。

「あんな男に謝罪する位なら、死んだ方がましだわ!」
「あんたって本当に酷い人だわね。彼に落ち度なんか無いわよ。呆れ果てたわ!」
 メグミはそう言い放つと店長と岩中を交互に何度か見た。
『そろそろ結論を出して下さい。この女の処分を言って下さい! 厳罰にして!』
 目でそう言った。

「仕方が無いですね。残念だけど、今日限りで、いや、たった今から君は、……首だ。依願退職の形にするけ
ど、それで良いですか?
 不服だったら裁判所に訴えて頂いて結構ですよ。ただしその場合は、懲戒解雇という形になりますよ。慰謝
料の請求もあるかも知れませんけど、一応念の為に言って置きます」
 店長は最後通告をした。ここでもし謝れば、昇に謝罪すると言えば、首にならずに済む事は分かっていたが、
雪美はパトロンが居る事もあって極めて強気だった。

「ふん、世話になったわね。依願退職で良いわ。さよなら!」
 大沢木は胸を張ってスーパー梅ノ木店を後にしたのである。
「全くしょうがないわね。でも首にして良かったんですか?」
 メグミはちょっと心配して言った。チェッカーが一人減る事は、新人が見つかるまでの間、自分達の仕事の量
が増える事になるのだ。

「まあ、ハローワークの方からどんどん雇ってくれと言って来ているから、直ぐ見つかりますよ。それにここだけ
の話ですけど、今度来た林谷君、おばさん連中からの受けが実に良い。
 防犯ビデオを見ると、彼に見とれているおばさんが結構居るんですよ。彼目当てに来ているおばさん方が大
分居て、売り上げが伸びていますからね。彼には居て貰わなくては困る。
 その為には、彼に敵対する様な人材はうちではいらないのです。いや、一刻も早く辞めて貰った方が良いん
ですよ。はははは、うまくいきましたよ」
 責任者の岩中は愉快そうに笑って言ったのだった。

 しかし昇にとって、もっと厳しい現実が待っていた。SH教の一部の者達が密かに彼を探していたのである。

「この写真に写っている者は我が地域本部教会において、無銭飲食をして逃亡した者である。被害金額はおよ
そ十万円。
 本来ならば警察に届け出る所であるが、金森田大先生の格別の計らいで、青年の将来を考えて、極秘裏に
彼を捕え、大先生直々の説法によって改心させ、無罪放免する事となった」
 教会の秘密の部屋の一つで、幹部の男が部下の者達に次になすべき仕事の概要を言った。

「各自に写真を配布するが、無銭飲食の事実を言ってしまっては青年の将来を摘み取ってしまう事になる。そ
こで我等は、彼が単に忘れ物をしたということで彼を探す事とする。実際彼は我等の支給する大切なSHカード
を忘れて行ったのだ。それには彼の指紋が付いている。
 ただまことに残念ながら、配布される写真は防犯ビデオから写し取ったもので、やや不鮮明であるが、皆が心
して当れば、必ずや神のお導きにより、青年に行き当たるであろう。それでは早速捜索の方をお願いする!」
 スーハー教の幹部、吉野川英次朗はそう言って、自分の配下の者達に檄(げき)を飛ばしたのだった。

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