夏 休 み 未 来 教 室
春 野 夢 男
54
「り、林果!」
昇は直ぐに抱き締めたかったが、
『ローブを着ているから妙に思われるかも知れないな』
そう感じて一言、言い訳をしようとした。
「このローブはその……」
「わ、私のこの格好は、ええと、……」
似たような事を林果も感じていた。透け透けのネグリジェを着ていたのでは、どんな誤解を受けるか知れない。
「全部金森田の仕業なんだな?」
昇にも林果にもその事は直ぐに分かった。
「そうです。この格好をしなければ昇さんには会わせないと言われて……」
「はははは、俺は無理やりSH教の信者にさせられた。ど、どうしてこんな事をするのかな?」
昇は微妙に嘘を吐いた。
「SH教の信者?」
「ああ、彼は俺を見込んでいるらしい。今は宝賢正幹部という位、相当高い位を貰っている。勿論断れない情
況だった。断れば林果や香澄さんを殺すと脅された」
「そうだったんですか。でも何か変ですね。いきなりそんなに高い位を与えてどうするのでしょうか?」
「俺にも良く分からない。ただ彼は俺の頭の良さを見込んで彼の片腕として使いたいらしいんだよ。どうしてそこ
まで俺に拘るのかよく分からないけどね」
昇はサイボーグの事は絶対に言わない積りだった。
「確か二時間したら解放してくれるって聞きましたけど、昇さんを解放しないのかしら?」
「当分は無理だろうね。でも林果が助けられたら、その後だったら何とかする方法があるんじゃないかな? 不
本意かも知れないけどお父さんの力を借りる手もあるし、警察に頼むのも一つの方法だ」
ここでも昇は嘘を言った。少なくとも警察があてにならない事は既に知っている。
「でも本当に変だわ。昇さんを彼の片腕として使いたいのなら、拉致監禁までしなくても良さそうなものだわ。お
まけに殺すと脅すなんて」
「そうだよな。ただ普通の方法では俺は絶対承知しないという事は、彼にも分かっているだろうからね。何が何
でも承知させる為には、この位やらないと駄目だと思ったんじゃないのかな。実際俺は普通の説得ぐらいじゃ
彼の要求を突っぱねただろうからね。それよりもちょっと明る過ぎるよね?」
昇は向き合って話ばかりしていたのでは、時間がどんどん過ぎて行くと思って少し焦っていた。
「そ、そうね。べ、ベットで一緒に、そのう、……」
林果は顔を赤らめた。なかなか抱いて下さいとはハッキリと言えなかった。
「パチンッ!」
壁にあったスイッチの一つを消すと全体の四分の一の明かりが消えた。スイッチは四つあるので、それ全部
を操作すると真っ暗になるのだろう。
「その、ベットに入ろうか?」
「パチンッ、パチンッ!」
昇は林果をベットに誘いながら、明かりを四分の一に落とした。薄暗くはなったがまだ結構明るい。しかし全
部消したのでは美しい林果の裸身が全く見えなくなって、それは昇としては不満であった。それに話もし辛い。
『多少なりとも話をして、お別れにしたい……』
そう思っていた。
昇はベットに入る直前にローブを脱ぎ捨てて全裸になった。それから大急ぎでベットに潜り込んだのだった。
「し、下着は着てなかったんですね? ど、どうしてですか?」
林果にはパンツすら穿いていなかった事が不思議に感じられた。
「スーハー教の仕来たりらしいよ。俺も以前は気が付かなかったけど、全員がそうらしい」
昇は確信があった訳ではない。が、今考えてみるとローブを身に着けている連中、特に女性の体の線がや
けにハッキリしていた事を思い出して、今頃になって確信したのだった。
「そ、そうなんですか。私はてっきり下着位は身に着けていると思っていたのですが、違ったんですね。あ、
あの、あのう、キ、キ、キスを……」
ベットの中に入って徐々に体を接近させ、やがて抱擁しあうと、林果の方からキスを求めた。
「ああ、林果、あ、愛しているよ!」
昇は今しかこの言葉、『愛している』という言葉を伝えるチャンスは無いと思って、必死の思いで言った。
「私も愛してる、昇、愛している!」
二人は激しいキスを暫くの間交わし続けた。しかし何故か不完全燃焼だった。十分に喜びは感じたが、以前
のそれと比べると少し物足りないのだ。それは恐らく金森田に操られているという思いが二人共にあったから
だろう。
「と、当分会えないから、エッチしておこうか?」
かなりぎこちない言い方だった。林果は昇が何か隠している事に薄々気が付き始めた。
「昇の子供が欲しい!」
林果は昇の心に探りを入れる意味も込めて言ってみた。
「こ、子供! うーむ、ど、どうしたらいいかな。しかし今後どうなるかハッキリしないから子作りはまだちょっと
早い気がするけどね」
「いや、どうしても子供が欲しい!」
林果は駄々をこねてみた。
「俺達はまだ若いんだし、ここの決着が付いてからでも遅くは無いと思うけど」
相変わらず苦しい言い逃れが続く。昇も本当は自分の子供が欲しかった。しかし未亡人と同じ事になってし
まう事を考えると、なかなか決断が出来ないのだ。金森田の罠にはまってしまって最早身動きの取れない状
態では、先行きは絶望としか言い様が無い。
『子供さえいなければ、何時かきっと素敵な彼氏と出会って、そいつと遠慮なく結婚出来る。林果の今後の長い
将来を考えれば、やっぱりその方が良い!』
昇の腹は決った。半立ち状態だった一物は彼の決意と共に、若者らしくピ−ンと跳ね上がった。
「ああ、固くなった、ふふふっ。……子供は今日の所は諦めておきましょう。ああん、昇! あああん!」
思いっきり甘える声を出しながらも、林果は苦しい昇の胸の内を察した。
『多分とんでもない事になっている。私に悟られまいとして必死なんだわ。御免なさい昇! 私貴方の子供がど
うしても欲しいのよ!』
昇も嘘を付いたが林果も嘘を付く事にした。
『これが最後かも知れない、いや、ほぼ間違いなくこれで終りだ! 悔いの残らない様にあらん限りの精力を
振り絞って情を交わそう!!』
それから一時間半ほど昇は痛みを感じるほどに激しい情を重ねた。精液を出し切って、尚何度も果て続けた。
五回か六回絶頂に達したのだった。
昇は本当はここまでの激しい運動は危険である事を知っていた。体内で眠っている病原体を目覚めさせ、
活動的にさせてしまうと今度は命に関わる。
『もう死んだも同然なんだからな……』
そう思って性も根も尽き果てるまで情欲し何度も絶頂を迎えたのだった。しかし幸か不幸かついに林果は一
度も絶頂を感じないままに終ったが、それでも精神的には十分に満足だった。
『コンドームの装着の時に歯で先端を思いっきり噛んで置いたから、間違いなく破れている筈よ。きっと妊娠す
るわ。今日は幸いにも一番の危険日。ああ、神様、私に昇君の子供を授けて下さい!!』
神の存在については曖昧な考えの持ち主だったが、この時ばかりは神に祈らずにはいられなかった。
情交が終っても時間までは濃厚なキスと、互いに愛撫しあう事を続けていたのだが、予定時間が迫って来る
と、流石に元の服、昇はローブを、林果は下着の上にセクシーなネグリジェを着て待機していた。まるでそうす
るのを待っていたかのように二人のローブ姿の女性が入って来た。
「林果さん時間よ」
昇が入って来たのとは反対側のドアから現れた女達は、昇に目礼をした後、林果を連れて行った。
「林果!!!」
「昇!!!」
お互いに大声で名を呼び合ったが、約束を守らなければ家族にまで累が及ぶとあっては逆らえなかった。林
果が二人のSH教の信者の女性らしい者達と一緒に、部屋を出るのと殆ど同時に、金森田が鍵を開けて入っ
て来た。今度は何人かの男女の看護師や医者らしい白衣を着た男達も一緒だった。
「大人しく待っているとは、なかなか殊勝な心掛けだな。それでは一緒に来て貰おうか。当教会の誇る世界一
の医療科学研究所へ。
まあ、要するにここの地下にあると言うか、実は小学校の跡地に出来た住宅群は資材を運び込む為の出入
り口にもなっておるのだよ。
教会だと何かと目立つのでね、深夜にしか資材を運び込めないんだが、あそこだったら昼にトラックが出入り
しても大して目立たないからね。
まあ、地下道が完成してからはそれ程大きな資材は余り無いから、大型テレビかなんか買った振りをすれば、
それで十分カムフラージュ出来るからね、ははははは……」
金森田は楽しそうに笑った。
やはり極秘なのだろう、迷路の様な道を通ってエレベーターの前に着いた。昇が逃げられない様にする為な
のか、気が付いてみると男の看護師四人に周りを囲まれながら歩いていた。
『あああ、出来るなら逃げ出したい。しかしもう駄目みたいだな。思えば短い人生だったな。たった二十四年の
人生か……。しかしフランスの天才数学者ガロアは、二十で死んだんだから彼よりは幾らかましか。でももう少
し長生きしたかったけどなあ……』
昇の歩みは段々遅くなって行った。エレベーターから降りる頃にはもう自分で歩く気力は無かった。精神的な
一面もあったが、恐れていた事が起きたのだ。
薬で眠っていた筈の病原体が、肉体的精神的なストレスによって活性化し始めたのである。決定的治療薬は
無いと言われている。
薬としては活性化を抑えるだけなのだ。但し極端に活性化した病原体になるともう薬では抑え切れなかった。
昇の容態は急激に悪化して行った。