夏 休 み 未 来 教 室 


                                              春 野 夢 男

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 ただ、ソードが重要視した要素がもう一つあった。それは出演者の中に彼好みの女性がいなかった事である。
出演者の中にはかなりセクシーな感じの女性もいたが、好みで無ければどうと言うことはない。
 実は他に手頃な番組があったのだが、それには何と、久米原香澄が出演していた。困った事に彼女はどち
らかと言えばソード好みだった。

『懐かしい……。香澄さん、何かこう、更にセクシーになったな。駄目だ、身が持たない。ちょっと惜しいけど止
めて置こう』
 そんな判断があったのだった。

 ソードの出演が決った、『一にスポーツ、二にスポーツ!』の録画取りの日がやって来た。ソードはわざわざ
東京からやって来たスタッフと共に上京してあるホテルに泊った。車から何から万事放送局が手配したので
あった。

 収録はスタジオと水泳会場の二本立てだった。水泳会場は何とも豪華に、ソードが世界新記録を樹立した屋
内プールだったのである。観客も数百人ほどいた。ブラスバンドや派手なチアガールの応援団もいて、相当に
賑やかだった。

「さて、今日は物凄い世界新記録を出した、時の人、ソード・月岡さんがゲストです。どうぞお入り下さーーい!」
「パンパカパーン、パパ、パンパカパーーーーン!!」
 大袈裟なファンファーレが鳴り響いて、特別に設置された登場門から、ドライアイスの煙に吹かれて華やかに、
ソードは何時もの全身を殆ど覆ったウエットスーツ風な海パン姿で登場した。
 何とも照れ臭そうにしていたが、それが一つの決ったパターンだったので断れなかったのである。それからレ
ギュラーの一人が今度は女性のアナウンサーに紹介されて登場する。 

「バリバリの現役スイマーに挑戦するのは、レギュラー陣の中でも特に水泳の得意な、大錦晃(おおにしきあ
きら)さんです。どうぞーーーっ!」
「パンパカパンパカパーーーーンッ!」
 ソードの時とは違うファンファーレに乗って、半ば踊る様に、大錦晃は登場した。こっちの方は覆っている部分
が最小の感じの、海パンだった。下腹部のもっこりも目立つちょっといやらしくもある海パンである。これも一つ
の流行(はやり)であった。

 男子の海パンには大きく二つの流行に分かれている。ソードの様に殆ど肌の露出の無いものと、極端に海
パンの面積が小さいものとである。
 肌の露出の多い方は、常識的に軽ければ軽いほどスピードが出るという考えに基づいている。一理ありそう
に思えるのだが、実際は少し違う様である。

 そもそも人間の肌は水泳をするのには向いていないのだ。つまりそのままでは例え全裸でもスピードが出る
事は無い。
 ところが近年のウエットスーツ風のほぼ全身を覆う海パンは、いわゆる鮫肌を研究して生まれた素材で出来
ていて、重量の点では当然ミニ海パンより劣るものの、水の抵抗は人肌より遥かに少なく、スピードはグンと
出るのである。
 とは言っても、その差は千メートルで一秒程度と考えられている。短距離だったら大差ないし、泳ぎ易さでミニ
海パンの方が勝るという意見もあり、どちらが主流とも言えない状態が続いていた。 

「早速、早速ですが、いきなりゲームの方、行っちゃいますよ。ソードさんを迎え撃つのは、芸能界きっての、
スーパースイマー、大錦晃(おおにしきあきら)さんですーーっ! 知る人ぞ知る、彼は元国体の水泳選手。
 しかも千五百メートルのスペシャリスト。相手にとって不足は無い! ですが、既に四十歳を越えております
ので、検討の結果、五百メートルのハンディが妥当と考えられました。それではお二人ともスタート台に立って
下さい!」
 司会者は元お笑い芸人だった男である。コンビを組んでいたが、彼だけが売れて芸能界に残っていた。相方
は結局芸能界を引退して、今は貿易関係の仕事をしていた。事業は成功し、かなりの富豪になったのだったが、
しかしその傍ら、彼は熱心なSH教の信者としても知られていたのである。

 ソードがこのバラエティ番組に出演するきっかけは、彼の尽力による所も大きかった。ソード自身この様な番
組がある事を全く知らなかったのである。
 信者の中に熱心に推薦する者があった。それが彼だったのだが、そのお陰でこの番組を知る事が出来たの
だった。
 ソードのマスクは勿論作り物ではあるが、精悍な感じの顔立ちであって、特に女性ファンが急増していたのだ。
その事を知っている各テレビ局は、確実に視聴率が取れるであろうソードを、自社の番組に引っ張り出そうと
凌ぎを削っていたのである。

「ビーーーーッ!」
 全日本の時と同様にビープ音で一斉にプールに飛び込んだ。五百メートルのハンディという事は、ソードは普
通に千五百メートル、大錦晃は千メートル泳ぐのである。当然ソードは大錦より速くなくてはならないが、五百
メートルのハンディは普通なら相当に辛い。大錦に勝つ為には世界記録に迫るタイムでなければならないのだ。

 ただ、機械の体を持つソードにとっては何でもない事だった。本当は世界記録の更新も可能だったが、
『幾らなんでもちょっとやり過ぎだろう』
 と感じて自重した。大錦の泳ぎを見ながら余裕で二メートルほど引き離して勝つ事が出来たのである。

「パンパカパンパ、パンパカパンパ、パーーーーーーーーンッ!!」
 ゲスト勝利のファンファーレが鳴り響いた。
「一週勝ち抜きおめでとう御座います! どうぞ賞金と賞品の目録をお受け取り下さい!」
 賞金と賞品の目録は女子アナウンサーが手渡した。
「あ、有難う御座います。これで来週も出られるんですよね?」
 ソードは番組の趣旨などを良く知らないままにそう言った。

「はい、勿論です。ですが今度はチャレンジャーとしての立場になります」
「チャレンジャーですか?」
「ええ、レギュラーの得意分野にソードさんが挑むのです。どの分野になるのかは、スタジオで決定します。さあ、
スタジオに参りましょう!」
 女子アナは元気良くそう言ったが、その日の収録はそこで終りで、スタジオでの録画取りは翌日になるのであ
る。

『ははあ、なるほど、テレビ番組の裏側というのは結構複雑なんだな……』
 ソードは一つの番組を作るのに、たかがバラエティであっても、結構手が込んでいる事にその時初めて気が
付いたのだった。

 翌日はテレビ局での録画取りだが、約束通り泊っていたホテルにテレビ局の方から迎えに来た。驚いた事に
迎えの車の周辺にかなりの数の女性ファンがいた事だった。
 ソードを乗せた車は、すがり付いて来る女性達を、やや強引に振り切るようにしてテレビ局へと向かった。携
帯に付いているカメラ等でソードを写す者達が随分いた。

『何だか、俺は犯罪者みたいな感じだな』
 車の中でソードはそんな事を感じていた。間も無くテレビ局に着いたが、待ち構えているであろう、ファンを欺
く為に、玄関は避けて通用口へ回った。そこにも熱心なファンが何人かいて辟易(へきえき)したが、全員にサ
インをして事無きを得た。

「いや、何と言うか、東京の人というのは過激ですね。大会で優勝した時にはこんな感じじゃなかったんですけ
どね。どうなっているんですか?」
 ソードは番組のスタッフの一人に聞いたのだが、忙しさにかまけて何も答えてくれなかった。
『この人、俺が嫌いなんじゃないのかな……』
 そう思うとちょっと不安になって来る。

「さあ、今日は大変な人をお呼びしております。私だから出来たのかな? なーんて、そんな事はありません。
うちのスタッフが大いに頑張ったお陰です。それでは、早速ゲストをお呼び致しましょう、ソード・月岡さーーー
ん!! どうぞお入り下さい!!」
 司会者は何とも張り切っている。ただ収録の都合上まだ前日の戦いに関しては伏せられている。他のレギュ
ラー出演者にはどっちが勝ったのか、どの様なハンディがあったのかなどは全く知らされていないのだった。

「さて試合の結果はどうだったでしょうか!!」
 司会者は結果を知っているのにも拘らず、大袈裟に言った。
「オオオオーーーーッ!!」
「ウワーーーーッ、凄い!!」
 ビデオで結果を知って、レギュラー陣は如何にも大袈裟に驚く。それが何時ものパターンの様だった。

「さて、次回は皆様方に何をして頂くか、これから決めるのですが、同じ水泳では芸がありませんから、陸の
競技と行きましょう。我と思わん人は手を挙げて、競技名とその競技を行いたいという理由とを仰って下さい。
ではどうぞ!」
 司会者はここでも張り切って言った。元気の良いのが取り得。それしかない感じではしゃいでいる。

「はい、あのう、自転車競技なんかどうでしょうか? 私は本業はスピードスケートだったんですけど、スケートは
ちょっと難しいかも知れませんから、自転車に致しましょう。自転車には乗れるんですよね?」
 元スピードスケートのオリンピック代表だった女性アスリート、紫花(むらさきばな)エリカが挑戦状を叩き付け
た。真剣な眼差しは本気である事を示唆していた。

「うーん、自転車には勿論乗れますが、スケートにも多少は乗れます。少し時間を貰えれば十分にハンディ無し
でやれると思いますけど。ただし、長距離、そうですね、一万メートルだったらノーハンディで行けると思います」
「えーーーっ! ノーハンディ! いや、そんな、無理をしなくても。紫花さんはまだ三十代ですよ。引退したのは
去年ですから、一万メートルが得意とは言えないかも知れませんけど、無謀じゃないですか?」
 司会者は慌ててソードを諌(いさ)めたのだった。

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